その頃、ロンドンの最前線では協会とイギリス連合軍と『六王権』軍との間の死闘は熾烈を極めていた。

だが、それとは対照的に、『六王権』軍に対して文字通り一方的な虐殺と破壊の限りを尽くしているのが凛達魔法少女だった。

『カレイドシュート!』

天空からはカレイドアローを手にした凛が次々と魔力弾を発射。

その爆発の直撃を受けた死者は無論の事、余波に巻き込まれた死者も高々と舞い上げられる。

その高さ勢いたるや、ドーヴァー海峡まで吹き飛ばされるのではと思わせるほど。

(後日調査した所、本当にロンドンからドーヴァーまで吹き飛ばされた死者が多数いた事が判明している)

だが、殆どの死者はある程度の段階で失速して地面に叩きつけられる。

だが、何も無かったように起き上がり再び前進を開始する。

あれほどの高さ、速度で叩きつけられたにもかかわらず、傷一つ無い。

いや、吹き飛ばされた死者の中には魔力弾を受けた死者もいる筈だが、それのダメージと思われる死者もいない。

「なるほどね、これがカレイドアローの弱点な訳?」

『はい左様でございます。この凛さん専用愉快型魔術礼装カレイドアローは無機物であればどんなに頑丈な装甲でも一発でぶち抜く性能を持っていますが、有機物ですとこれの直撃を受けて大気圏まで舞い上げられて、その後地面に叩きつけられたとしても傷一つも受けません』

「あのねえ・・・私達の相手の殆どは死者や死徒の有機物よ!それにどう対抗しろって言うのよ!」

『いえいえご心配には及びませんよ。このまま吹き飛ばし続ければいいのです。運が良ければドーヴァー海峡まで吹き飛ばされる死者もいるでしょうし、これで十分な足止めとなります』

「つまりは後はアルトリア達に任せろと言う事ね・・・仕方ないわね。こうなったら徹底的に景気良くやってやろうじゃないの!」

半ばヤケクソ気味な凛の宣言と共に死者打ち上げは盛大に行われる事になった。

二十二『悪夢再現』

一方、別の地点で暴れまわるルヴィア達もまた『六王権』軍に対して殺戮と破壊の限りを尽くしていた。

「さあ!食らいなさい!」

カレイドサファイアことルヴィアの宣言と同時に、カレイドステッキの魔力を惜しむ事無く使い、アルトリアと比べても遜色ない魔力放出で部隊長と思われる下級死徒に接近を図り遠心力を利用したバックブローを叩き込む。

それを見て嘲りの笑みすら浮かべて片手で受け止めようとする死徒だったが、それは誤りだった事を命を代価にして悟る。

突然ルヴィアが身に付けた宝石のブラスナックルから魔力が噴出し、受け止めようとした死徒はおろか、周辺の死者が纏めて燃え尽きた。

「なるほどこれが私の魔術礼装ですの」

『はい、このルヴィアさん専用の愉快型魔術礼装カレイドグラップは有機物でありましたら、標的がたとえアルトリアさんの『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で防御していても必ず命中し相手を即死させます。ただし、これの力が最大限活用出来るのは近接戦に限定されてしまいますし、無機物の場合ですと、たとえルヴィアさんが全力で一撃を打ち込んでもひび一つも入りません』

つまり、凛のカレイドアローとは何もかも真逆と言う事。

遠距離戦に絶大な力を誇る凜に対して接近戦で無類の実力を誇るルヴィア。

有機物(生物)に対して完膚なきまでの殺戮能力を誇るルヴィアに対して、無機物(物体)に問答無用の破壊力を見せ付ける凜。

「無機物には無力ですの・・・少々忌々しいですが仕方ありませんわね。破壊する限りは破壊してしまいましょう!」

当人達は知る由もないが凜と酷似した返答をしてから再び『六王権』軍に突撃を始める。

更に別地点ではカレイドアメジストこと桜が死者の集団に半包囲されつつあった。

だが、それを見ても桜の表情に焦燥も恐怖もない。

傍らにメドゥーサがいないにも拘らず。

と、手に持つ弓を構え弓を引く。

矢も番えていないはずだが、弓を引くと同時に魔力で生み出された矢が現れる。

「はっ!」

短い言葉の中にも込められた気合と共に矢を撃ち放つ。

その矢は死者をすり抜け街灯に僅かに照らし出される死者の影に突き刺さる。

同時に死者達は次々と奈落に落ちていく。

自分達の影の中に・・・

『いかがですか?桜さん専用愉快型魔術礼装シャドーホームは?この礼装で打った矢に影が当たればその本来の主は問答無用で影の穴に落ちて現と虚の狭間に落ちてしまいます』

「ええ。すごい威力ですけど・・・」

『お気づきでございましたが。思っている通りこの礼装、実体には掠りもしませんし、更に影がないと何の役にも立ちません』

「そうなんですよね・・・おまけに『六王権』軍は闇の封印の下、明かりがないと戦えないというのは情けないですね」

『大丈夫です!かすかでも影があればシャドーホームはその力を発揮します。影を作るための明かりも考えればいいんです!』

「そうですね、無いものを強請っても仕方ないですから・・・現状で最大限の戦果を出しましょう!」

気を取り直して永久の闇に落とす矢は次々と射出され死者達は狭間の空間に落とされる。

桜の通った後には桜自身の宣言通り死体一つ残る事はなかった。

さらに別の地点では宝石色の針金細工の鳥以外にもヘラクレス、セラ、リーゼリットを従えたカレイドクリスタル=イリヤがじわじわ迫る『六王権』軍と対峙していた。

「じゃあ始めるわよ・・・行っけ〜!」

イリヤの宣言と同時に針金の鳥が生きているかのように羽ばたき、イリヤの肩から離れると宙を滑空して『六王権』軍を急襲する。

だが、恐怖も痛覚もない死者、嘴や爪でかすり傷を負っても気にする事もなくイリヤ達に迫り来る。

だが、それを見てもイリヤに焦りの色はない。

「これでいいの?」

『はい、これで十分です』

イリヤとルビーとの間で交わされた短い会話にどのような意味があるのか?

それは直ぐに判明した。

突然死者達の動きが止まり、鳥によって受けた傷から死者達は宝石に変わり、数秒後には死者は宝石の彫刻と化した。

「何と・・・これがお嬢様の魔術礼装の力」

『はい、イリヤさん専用愉快型魔術礼装レインボーバードは傷を負わせればその対象を宝石に変えられます。ですが、この力は一定時間経つと効果はなくなってしまいます』

「つまり殺傷能力は皆無なのね」

『はい、あくまでも補助的能力です』

「ま、良いわ。手荒い事なんてレディのする事に反するし。その為にヘラクレス達もいるんだから。じゃあヘラクレス、それにリズ、私がどんどん死者を宝石に変えるから全部破壊しちゃって、セラは二人のサポートよろしくね」

「承知」

「判った」

「かしこまりました」

イリヤの命に頷き大剣を振りかざすヘラクレスの隣で自分の背丈と同じハルバートを構えるリーゼリット。

二人は同時に突進を開始し次々と彫像を宝石の瓦礫に変えていく。

そんな二人の後ろからはレインボーバードを操るイリヤが、その隣で前線の魔術的サポートに入るセラ。

そして・・・最後の地点では最も凄惨な処刑が執り行われていた。

「ブレイク!」

カレイドエメラルド、カレンが振り回した鉄球が唸りを上げて襲い掛かる。

それを何故か恐怖に満ちた表情で逃げ出す死徒。

だが

そのうちの一体が鉄球の軌道上に入り込んだ。

そして激突したと思ったときには既にその姿はない。

「あら、完全に消滅したみたいね」

『当然でしょう。カレンさん専用愉快型魔術礼装ラブアース・ディザスターは持つものの愛の大きさ、深さでその重量を変えていきます』

「そうね。全人類を殺したいほど愛する私には相応しい礼装です」

殺したいほどの愛とは何なのかとか、ならば死者や死徒は対象外なのかと第三者がいれば突っ込む所だろうが、幸か不幸かカレン、そして『六王権』軍意外誰もいなかった。

「さあ引き続き主の御許に送り出しましょう。正義の名において!」

『キャー素敵ですよカレンさん!』

慈愛に満ちた笑みで鉄球を軽々と振り回す姿はどう考えても正義の魔法少女とは程遠いのだが、それは言わぬが花だろう。

カレイドエンジェルズ達の猛攻は『六王権』軍自体の後退も重なり前線をロンドン市街から郊外に押し上げつつあった。









一方、ヴァン・フェムは予定通り後退を続ける自軍を眺め満足そうに頷く。

「殿の部隊が大被害を受けていますが、他は順調に後退、既に『アスモデウス』が協会の主力部隊と戦闘状態に入ったと報告が入りました」

「後退した部隊から順に戦力再編を行え、その後いつでも攻勢を仕掛けられる準備に入らせるように」

「はっ!」

「申し上げます。『ベルフェゴール』起動完了、攻撃に入りました」

「そうか、ふふふ、見物だぞ、『ベルフェゴール』・・・奴らと英霊達の戦いは・・・それと『サタン』はどうだ?」

「まだ報告が入って・・・」

側近の言葉に重なるように飛び込んできた死徒が待望の報告を行う。

「申し上げます!『サタン』起動準備完了!いつでも起動出来ます!」

「来たか・・・『サタン』を大至急起動させろ!!私が乗る!私はこのまま前線に赴くが以後の総指揮はお前に委ねる。後の事はお前が取り仕切れ」

「閣下ご自身が出られるのですか!」

「そうだ。『サタン』の制御は現状私しか出来ぬ。無人にする事も出来なかった以上『サタン』を前線に出すには私が出るしかない」

「判りました。ご武運を」

「ああ、だが、大丈夫だ。『アスモデウス』、『ベルフェゴール』が出ている以上奴らも戦力を分断せざるを得なくなる。そこに付け込めば良い。では後は任せる」

「はっ!」









その頃、攻めに転じている協会側では問題が起こっていた。

『クロンの大隊』を始めとする従来の協会所属の魔術師達は追撃も秩序を持って行っていたのだが、今回急遽雇われたフリーランス達の一部が命令を無視して『六王権』軍に深追いを始めていた。

その速度は拙速に過ぎ、凜達やアルトリアを始めとする英霊達をも追い越し突出する形になっていた。

更に、それに釣られる様にイギリス軍の一部もフリーランス達に追従。

数千の戦力が突出してしまった。

彼らは一様に今まで『六王権』軍に手も足も出なかった事への趣向返しとばかりに周囲も見ず、視野も狭窄し自分達は勝っていると妄想してただひたすら突き進む。

司令部からの後退命令を無視して・・・それが己の死を招くものだと気付かずに。

だが、それも直ぐに眼を覚ます事になる・・・

変わりにこの世からあの世に突き進む結果となるが・・・

ある分隊がそれを見つけたのは前方に『六王権』軍が見えなくなってしばらく経っての事だった。

自分達に向かって進むそれは形としては女郎蜘蛛、大きさは『マモン』ほどあった。

「なんだ・・・これは・・・」

先程までの高揚等消え失せ、呆然と目の前に現れた巨大蜘蛛を見ていたが、それが口の部分を開くと同時に我に返った。

「!!こ、攻撃!!」

この時点で彼は判断を誤った。

発見した時点で逃げ出すべきだった。

慌てて小銃を構え、撃ち始めるが、そんな物がそもそも役に立つ筈も無く、虚しく装甲を弾く。

「ひぃ!」

とてもかなわないと逃げ出そうとするが、巨大蜘蛛の口からガスらしきものが放出された瞬間全ての動きを止めた。

「へ、へへへへへ・・・」

口から涎をたらし、眼の焦点は全く合っていない。

「あ〜、おんなだぁ〜」

「ほんとうだぁ〜いいおんながはだかだぁ〜」

「やりてぇ〜」

「おれもぉ〜」

舌足らずの声で彼らの眼に見える全裸の女達・・・実際には死者の群れに自分達から飛び込んでいく。

それを確認してか否か巨大蜘蛛・・・色欲魔城『アスモデウス』は前進を開始する。

だが、それは

「カレイドシュート!!」

飛行していた為にいち早く『アスモデウス』を発見した凜の攻撃で止められた。

「あれもヴァン・フェムの魔城の一つって訳ね」

『はい、でもお気を付け下さいませ凜さん。あれが吐き出すガス、あれは人間の本能である性欲を刺激して催眠、及び酩酊状態にさせます。いくらカレイドステッキで防御していたとしても限界がございます』

「つまりなるべく近寄るなって事でしょう」

『はい、あのガスの有効範囲がどれだけの広さなのか判らない以上、それしか有効な手はありません。幸いあれも無機物。凜さんにも勝機は十分にございます』

「とにかく、今はあれを近寄らせないのが先決だけどね」

そう呟く凜の視線の先には新たな獲物を見つけガスをしきりに噴出す『アスモデウス』。

「いくわよ・・・あんたも正義の魔法少女カレイドルビーの伝説の一コマになると良いわ!!」

凜と『アスモデウス』の戦闘が始まろうとしていた時、突出していた一部部隊に正体不明の攻撃が加えられ始めていた。

ある部隊では・・・

「おい、前に誰かいるぞ」

「なに?一体どこに・・・」

その瞬間、彼らは物言わぬ肉塊と成り果て、別の地点では・・・

「??なんだ・・・」

それと同時にすさまじい怪力で引きずり込まれ闇の奥から背筋に寒気が走る咀嚼音が鳴る。

更に、また別の地点では

「ひ、ひいいいいい!!」

一部隊丸ごと、巨大な足に踏み潰された。

「ふふふ・・・さあここからが本番だ」

満足げにヴァン・フェムが座上するのは憤怒魔城『サタン』。

様々な特殊能力を与えられたほかの六大魔城とは一線を画した従来のヴァン・フェム製作ゴーレム『魔城』の正統な後継機にして現時点での最高傑作。

これらによって次々と部隊は蹴散らされていった。









「なんだと!勝手に突っ込んだ連中が敵の反撃にあっているだ?」

「で、おまけに私達にその救援に向かえと言う事です」

突出した部隊が至る所で反撃を受けているとの情報をアルトリア達がそれぞれ入手したのは『六王権』軍の反撃開始から五分後・・・丁度凜と『アスモデウス』が戦闘を開始した直後の事である。

「やれやれ、つまり尻拭いをしろという事ですか・・・言いたい事が色々ありますが仕方ありません。行きましょう」

不満もあったが、ここで戦力バランスが崩れると言う事の重大性を認識しない者は一人もいなかったのでそれぞれのポイントから向かう事になった。

そして・・・最初にそれと遭遇したのは偶然にも最も前線に進出していたディルムッド。

「これは・・・」

しばらく進んだ所にイギリス軍、及びフリーランスの魔術師の惨たらしい死体があたりに散乱している。

これだけならば特に気を配るほどではない。

犠牲者には気の毒だが、死体など戦場においては掃いて捨てるほどあるもの、驚くに値しない。

だが、それにもかかわらずディルムッドは一つ一つ死体を・・・正確には死体の切り傷を観察する。

やがてかすかな違和感は大きな確信となって現れた。

「馬鹿な・・・何故・・・」

とそこに

「何をしているのですか?ディルムッド・オディナ」

カレンが姿を現した。

「ああシスターか・・・」

「彼らに何か?」

「いや、この切り口なんだが・・・俺の技と酷似・・・・いや、言葉を飾るのは止めよう。位置、角度、深さ・・・どれをとっても俺が付けたとしか思えない」

以下に英霊となった彼らでも戦闘法や癖は長年の戦いで身体に染み付いた己自身。

それを見間違える事などありえない。

「では彼らは貴方が・・・いえそれはありえない」

「ああ、俺はエミヤ殿から征服王と共に後事を任されている。歴史において雪ぎ様の無い汚名を受けた身だが、それでも主の信を裏切る事はもうしない」

「では・・・一体誰が・・・」

その時後方から爆発的な殺気が二人に襲い掛かる。

「!!」

瞬時に戦闘態勢に入れ替わったディルムッドと、その気配の主との間で短いながらも激しい打ち合いが始まる。

だがそれもカレンの鉄球が援護に入った事による横槍で気配の主が間合いを取る事によって終わりを迎えた。

「えっ?」

だが、その襲撃者の正体を見た時、カレンは思わず絶句した。

「何故だ・・・」

一方のディルムッドは苦りきった表情で二槍を構え、吐き出す様に問いかける。

何故なら・・・

「どうしている・・・」

そこにいたのは・・・

「答えろ!どうしてここにもう一人俺がいるというのだ!!」

全く同じ二槍を寸分の狂いなく同じ様に構えるディルムッドだった。









一方、英霊達の中では最も先行していたイスカンダルは地上から恐怖に表情を張り付かせて逃げている一人の魔術師を見つけ出した。

「おい!どうしたというのだ!」

「あ、あああああ」

声帯もこわばっているのか意味不明な単語を呟き、後ろに指を指すだけで何も答えようとしない。

「ええい!もう良い!!さっさと行け!」

痺れを切らしたイスカンダルの一喝に再び足をもつれさせながら逃げ出す。

「全く一体何があったと・・・」

ふと、イスカンダルの眼が細まる。自分の前方から猛烈な血の臭いが接近してきたのを察知した。

「征服王!ここに・・・ちょっと!何よこのすごい血の臭い!!鼻が曲がりそうだわ」

後から追いついてきたメディアが思わず鼻をつまむほどそれは壮絶な血の臭い。

「やっと追いついたって・・・ひどい臭いね、服にまで染み付きそう・・・」

「これは一人二人の血の量ではないな・・・」

「何ですの・・・この臭いは・・・吐き気すら催しますわよ」

「うっ・・・」

「サクラ、大丈夫ですか?」

続々と追いついたイリヤ達ですらその臭いに辟易する。

「・・・大英雄!!気をつけい来るぞ!」

イスカンダルの言葉に合わせる様に何か得体の知れない物体が闇から飛び出してきた。

「おおおお!!」

それを大剣の一振りで全て叩き落すヘラクレス。

叩き落されたそれは・・・異形の蛸と呼べばよいのか、とにかく全員見た事の無い生物だった。

いや正確には一人を除いてであろう。

「なん・・・だと??」

それを見た瞬間イスカンダルの表情が強張った。

「どうかしたのか征服王」

ヘラクレスの言葉にも耳を貸さずただ前方を睨み付ける。

「おお!とっとと出て来ぬか!!」

しばらくして闇の向こうに目掛けての方向に全員が顔を見合わせる。

「どう言う事なの?征服王、貴方心当たりでもあるの?」

不審に思ったイリヤの質問にイスカンダルは苦々しく応じた。

「ああ、余の記憶に間違いが無ければこいつは・・」

その時返答が大気を震わせて闇の奥から姿を表そうとしていた。

「おおおおおおお!!いざ見よ!神よ、そして愚物を崇める愚か者よ!!そして麗しく崇高なる聖処女を貶め穢した罪、未来永劫に渡る罪過の重さこのジル・ド・レェが思い知らせてくれよう!!」

怪生物の山の上に乗り全身に狂気の色を滲ませる大男・・・ジル・ド・レェは天高く背教の叫びを木霊させた。









同時刻、セタンタ、バゼットはロンドン市街地に向かって真っ直ぐ進む巨大ゴーレムを視界に納めていた。

「また巨大ゴーレムかよ」

うんざりだと言わんばかりに肩をすくめるセタンタ。

「無駄口を叩いている場合じゃありません。現状の私達では明らかに火力が不足しています。出来て足止めが精一杯でしょう」

「んなこたぁ判っているさ。ま、嬢ちゃん達が来るまで時間稼ぎするとしますか」

「ええ」

そう言い合いながら戦闘体勢に入ろうとしたとき既に『サタン』はセタンタ達の姿を捉えていた。

「敵か、たった二匹だが、一匹は英霊か・・・後々邪魔に入られると厄介だな・・・『サタン』奴等も殺せ」

ヴァン・フェムの命令を受けて『サタン』はセタンタ目掛けてその拳を振り下ろそうとしていた。









そして・・・前線に急行していたアルトリアは自身の悪夢と再び対峙しようといていた。

ふと頭上から鼓膜を震わせる轟音が鳴り響く。

アルトリアが上を見上げるとそこには対地攻撃ヘリが真上で空中静止していた。

特に気にも留めなかった筈なのにどうしてか胸騒ぎがする。

もう一度上を見上げようとした時、上から何かがが落ちてきた。

「!!」

そこにはイギリス軍の軍服を着た男の死体が転がっていた。

だが、その死体には顔が無かった。

頭部の前半分がごっそりと抉り取られていた。

「な・・・一体これは」

その時、ヘリの爆音で大抵の音や声などかき消される筈なのにアルトリアの耳にあの声が聞こえた。

「アー・・・サー・・・」

「!!ま、まさか・・・」

上を再度見上げる。

何故直ぐに気付かなかった。

ヘリの全身を纏わり付く触手じみた黒き瘴気を。

もうこの時点で確定だった。

だが、アルトリアがまだ信じる事が出来なかった。

全身が打ち震える。

「そんな・・・どうして・・・なんで」

「アー・・・サー・・・アァ・・・サァ・・・」

闇に加え、ヘリのサーチライトの逆光で見える筈が無い。

それでも確かに見えた。

ヘリのコクピットに座るどす黒い怨念と憎悪の魔力にまみれた鎧を、そして顔など隠す必要はもう無いと言わんばかりに兜を脱ぎ捨て、行き場の無い怒り、恨み、憎しみを全面に押し出した凶貌を。

「やはり貴方は・・・私を許さないのですか!私を未来永劫憎み続けると言うのですか!わが友湖の騎士(サー・ランスロット)!!」

「アーーーーーーーサーーーーーーー!!!」

アルトリアの絶望の悲鳴と、ランスロットの憎悪の咆哮、そしてその咆哮に釣られる様にヘリの爆音が甲高く鳴り響いた。

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